京急線平和島駅を降りて旧東海道を、北に向かって歩くこと5分。平和の森公園の少し手前に、ヨーロッパの街角のような一画が現れます。
ここがベーカリー「Crescent & Molly(クレセント&モーリー)」です。「クレセントは三日月。モーリーはイギリスで最もポピュラーな犬の名前なので……、強いて訳すならポチかな?」とオーナーの濵 隆太郎さん。
オーナー 濵佳子さん(左)&隆太郎さん(右)ご夫妻
本格的なハードパンはもちろん、惣菜パンやサンドイッチが所狭しと並んでいます。
「大田のお土産100選」に選ばれた「三日月あんぱん」は、本格和菓子職人が作るあんこを詰め込んだ重厚さが特徴の看板商品です。
濵さんのおじいさんは「昇月堂」という和菓子屋を都内で営んでいましたが、廃業することに。そこで濵さんは、その店と自分の店の名に共通している「月」にちなみ、三日月の形をしたあんぱんを作り、おじいさんの店で使われていたあんこを使うことで、伝統の味をつないでいくことを思いつきました。
「三日月あんぱん」は小ぶりながらもしっかりとした食感。1個129円(税込)
しかしさっそく問題が。なんと成形に使う三日月の型がどこにも売っていないのです。「星やハートの型はあるのに……」と濵さんは途方に暮れてしまいます。
その様子を見た妻の佳子さんは、大森で製造業の会社を経営しているお兄さんに相談しました。ほどなくしてお兄さんの力添えにより、取引先の京浜島にある工場が、三日月の金型製作を特注で請け負ってくれることになったのです。
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(左)特注の金型。(右)濵さんの叔父であるベテラン和菓子職人が、あんこを練り上げる様子。現在はベーカリーの厨房で作業をしています。 |
「三日月あんぱん」は粒立ったあんこと、天然花酵母が持つ独特な香りが相まって、まるで高級和菓子のような味わいです。
「無添加素材しか用いませんが、翌日になっても硬くなりません。これは通常の6倍もの時間をかけて生地を仕込んでいるのが理由の1つ。フランスパンの伝統的な作り方をヒントにしました」と濵さん。
ところでこちらのお店、犬用のパンやクラッカーも販売しているようですが、その理由を濵さんにたずねてみました。
「この街に愛されることを1番に考えた結果、こうなったのです」
犬用のパンやクラッカーは砂糖・塩不使用。
お店をオープンする前に、濵さんは近辺を徹底調査。この辺りは平和の森公園に近いこともあり平日・休日問わず、犬を連れた人が多く通りますが、ペットとオーナーがともに休める場所がなかったのです。
そこで濵さんは「ワンちゃんもOK」をコンセプトに打ち出すことで、自分の店が「街の人が気持ち豊かに、心から安らげる場所」になるようにという願いを込めたのです。
濵さんはイギリスで8年間を過ごしRHBNC(現RHUL,ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイカレッジ)を卒業後、紆余曲折あって30代になってからパン職人を志したという異色の経歴の持ち主。「ようやく自分の好きなことを始められたのですから、やるなら徹底的に。とにかく今、自分ができる『最高』にこだわる」がモットーだとか。
そのこだわりが生み出したのが、梅の品種の一つである座論梅(ざろんばい)の花酵母を用いた食パン「
座論梅食パン(1斤356円(税込))」。こちらも「大田のお土産100選」に選ばれています。
食パンも多数の種類があり、写真は「水曜日に発売するいつもと違う小麦粉で作った食パン」というシリーズで、この日は製麺用の小麦粉を用いたものでした。「水曜日限定食パン」は1斤356円(税込)
「大田区の花が梅ということで考案しました。大田区はインスピレーションの宝庫。次は大田区の何を素材にしようかと考えるだけでワクワクするんです」
地元への愛にあふれたお店と「三日月あんぱん」。
パンのおいしさはもちろん、こちらのお店はドラマの撮影でも度々使われるほど素敵な雰囲気! ぜひ一度足を運んでみてくださいね。
▷ 大田のお土産100選で「
三日月あんぱん」をチェック