日本最大級の中央卸売市場「大田市場」
どんな方々に出会えるのか、ドキドキしながらやってきた「大田市場」。広大な敷地の中に、「青果」「水産」「花(か)き」の3つの部門を抱え、毎日活発な取引が行われています。
もともと神田、荏原、蒲田、大森にあった市場を統合する形で平成元年に開業し、令和4年で33年目。羽田空港や東京港、JRの貨物基地、首都高湾岸線、環状七号線などに近接した立地は物流の拠点として適しており、東京都民はもちろん、全国の人々の暮らしを支えている存在です。
中央卸売市場とは、国が認定・監督し、地方公共団体など(大田市場の場合は東京都)が開設・管理する卸売市場のことです。
さまざまな事業者が絶えず出入りしながら、品物の売買を行っています。
その特徴の一つが、早朝に行われる“せり”。市場内でのせりを取り仕切るのは、大卸とも呼ばれる「卸売業者」で、国内外から集めてきた品物を、せりに参加する権利(買参権)を持つ「仲卸業者」や「小売業者」などに販売します。
また、「仲卸業者」は市場の中に店舗をもち、せりで仕入れた品物を「小売業者」や「飲食業者」などに販売しています。せり以外にも、買い手同士が競争することなく、売り手と買い手がお互いに話し合って価格等を決める “相対取引”という取引方法もあります。
皆さんが普段手にしている食品やお花にも、きっと大田市場を経由して届けられているものがたくさんあるはず! 今回の取材では、「青果」「水産」「花き」の3つの部門の「仲卸業者」のお店を訪問し、普段知ることのできない市場の舞台裏の様子をのぞかせてもらいました。
【青果部門】日本一の規模を誇る
最初に訪れたのは、青果部門。大田市場の青果部門は、日本一の取り扱い規模を誇り、1日あたり約3,875トン、金額にして約11億8,000万円(令和3年調べ)の野菜や果物の取引が行われています。取扱量は年々増加傾向にあり、その多くが、スーパーなどの大型小売店舗に出荷されているそうです。
70年以上続く青果物仲卸業者の「株式会社大治(だいはる)」を訪問しました。
株式会社大治の店舗。建物の中に建物があるなんとも不思議な光景です。
株式会社大治は「野菜の目利き」として、コンディションや珍しさなどに強いこだわりをもつお店のニーズに応える品物の取り扱いを得意としています。地産地消の促進や若い生産者の応援など、日本の農業の未来を守るための活動にも力を入れて取り組んでいます。
その日のせりで仕入れた巨大なマツタケや珍しいキノコなどを見せていただきました。
高級中華料理店などで青梗菜の代わりに使われることが多い「パクチョイ」。国内ではあまり生産されておらず、流通量も限られているそうです。
小分けや出荷などの作業が行われるのは主に「青果冷蔵庫棟」です。建物全体が冷蔵庫のようになっており、ヒンヤリとした環境で野菜の鮮度を保ちます。
箱の中身はすべて野菜や果物。「優れた野菜の目利き」となるまでに、10年くらいはさまざまな野菜に触れ合う経験が必要だそうです。
「卸先であるスーパーに、『あの品物が好評だったよ』と言ってもらえる瞬間が一番嬉しいですね」と営業部次長の手塚邦彦さん。美味しい品物や珍しい品物を見出すことに情熱を持ち、愛情をもって野菜に向き合う姿勢が印象的でした。
【水産部門】新鮮な海の幸がたくさん!
続いて向かったのは水産部門。大田市場の水産部門では一日に約21トンの水産物が扱われており、多くの種類の魚が取引されています。
新鮮さが“要”ともいえる魚介類。活魚を生きたまま運ぶために運搬に使われているのは、主に「活魚車」という水槽を載せたトラックです。また、全国各地から運ばれてきた活魚以外の水産物は、市場内の卸売業者が保有する冷蔵庫や冷凍庫等で保管されています。
水槽付の活魚車で、生きた魚が市場に運ばれてきます。
水産部門で訪れたのは、仲卸業者の老舗「有限会社権(ごん)安(やす)商店」の店舗です。水産部門が大田市場に移る前の「大森市場」で創業され、現在は3代目となるご主人が切り盛りしています。
権安商店のご主人の平林幸雄さん
店頭には、新鮮な旬の魚が数多く 並んでいます。
秋の味覚の一つ、サンマ。近年は漁獲量が減ってきてしまって、以前と比べて値段は高めに。資源が回復し、また気軽に食べられるようになるといいですね。
大田市場の水産部でせり取引されているのは、主にマグロ類で、市場内の仲卸店舗に並ぶほとんどの魚は、深夜から行われる相対取引(前出)で仕入れられています。
仲卸業者の店舗で売られている魚を買いに来るのは、主に街の魚屋さんや皆さんが食事に行く飲食店ですが、土曜日には一般のお客様も来場されているそうです。ですが、日本人の魚離れが進んでいるうえに、コロナ禍で飲食店の客足が離れていた期間が長かったため、お客様の数もコロナ禍前ほど多くなく、大田市場の水産部門にも大きな打撃が……。
そこで、水産部門では、令和4年の年末の12月26日~30日に、新聞の折り込みチラシで大々的に告知して、一般のお客様を中心に買い物を楽しんでもらう機会を設けるそうです。市場の新鮮な魚をお得に手に入れるチャンスですので、ぜひチェックしてみてくださいね!
「市場の新鮮な魚を買いに来てもらえると嬉しいです!」と大田市場水産物卸協同組合の皆さん。左から副理事長の田中輝信さん、理事長の北浦浩さん、事務長の峰義之さん。令和4 年末以外にも、定期的に一般の人を対象にした販売会を予定しているそうです。
【花(か)き部門】 胸が高鳴る花いっぱいの空間
大田市場の花き部門では、1日あたり約256万本、金額にして約1億6,000万円の花の取引が行われています。全国の中央卸売市場に占める取扱額のシェアは40%を超えており、文句なしの日本一!
これだけの量を扱うためには、取引のスピードが大切です。そのために取り入れられている工夫が電子機器を用いた「機械せり」です。また、一般的なせりは、値段が徐々に上がっていく“上げせり”方式なのですが、大田市場の花き部門のせりは、値段が徐々に下がっていく“下げせり”になっていることも時間の短縮につながっているそうです。
下げせりとは?
せり人が設定した品物の値段を高い値から下げていく間に、仲卸業者や売買参加者が落札する取引の方法です。花き市場では、せり時計と呼ばれる電光表示板に流れる情報と、せり人が示す品物を見ながらせりを行っていきます。買い手は、表示板に示される値段が下がる動きを見て、ほしい値段の時、瞬時に手元のボタンを押して買い付けを行います。多品種、多品目の品物を扱う花き市場では、このシステムにより値段の間違いが起こりにくく、短時間で正確に適正な値段を決めることができます。
花き部門では、切り花や枝ものなどを得意としている仲卸業者「株式会社プレステージ」のお店を訪問しました。
株式会社プレステージが市場内に構える店舗の様子。市場の中には、このような仲卸業者の店舗がたくさんあります。
店内は色とりどりの花でいっぱい! ディスプレイに季節を感じます。
ここで花を買い付けているのは、主に花屋さんや生け花の先生など、花に関する職業に携わっている人たちです。せりにかからないような珍しい花や、長持ちする花、色やサイズなど、いろいろなニーズに応えるようにしているそうです。
カラフルな薔薇にワクワク! 花好きの人には、たまらない空間です。
珍しい花にも出会えます! 生産者から直接買い付けた花や、海外から輸入された花なども仕入れています。
店舗に伺ったのは朝の7時半。ちょうどせりが行われていて、花き部門が1日の中で最もにぎやかになる時間帯でした。ただし、その時間に仕入れを行う小売業者を迎えるために、仲卸業者の皆さんが市場に出勤するのは、だいたい夜中の12時頃だそう。夜を徹してのお仕事なのですね。
「女性はもちろん、男性にも、花のある暮らしを楽しんでほしいです」と店長の松田泰典さん。素敵な笑顔がお花のイメージにぴったりでした。
*眠ることのない市場の時間割*
絶えず人が働いていて、眠ることがない市場。ここで、市場の時間割を見てみましょう。
せりが行われるのは朝5時~8時ですが、せりにかけられる品物の準備や下見などが行われるのはその数時間前。さらに、せりにかけられる品物の市場への入荷は、前日の夕方から深夜に遡り、街が寝静まる真夜中にはせりに出されない品物の相対取引も行われています。
普段目にすることはありませんが、市場で流通に携わる人たちの昼夜を問わない活動が、私たちの暮らしを支えているのですね。
一般の人におすすめの楽しみ方は?
大田市場には、一般客のための展示室や見学コースが設けられており、活気ある市場の様子を見学することが可能です。
見学コースは事務棟の2階からスタートします。市場の様子を一望することが可能です。(花きと青果部門では、個人見学の場合のみ、せりを見学することが可能。)
展示室には、市場内を走る「ターレット」と呼ばれる運搬車両が展示されています。
ひと休みしたいと思ったら、飲食店での休憩がおすすめです。
敷地内には、市場を利用する人のために飲食や必要な資材の販売などのサービスを提供する「関連事業者」の店舗のある「関連棟」や「事務棟」があり、一般の人でも利用することができます。
今回は、大田市場の前身の「神田市場」の時代に創業した老舗の飲食店「かんだ福寿」さんに立ち寄らせていただきました!
ここでのお目当ては、名物グルメの「三花丼」と「穴子天丼」。
「三花丼」は、市場で仕入れた新鮮な魚介類を使用した贅沢な丼! 季節によって若干内容は変わるそうで、この日は10種類以上の具材がのっていました。
三花丼というネーミングは、ご主人のお母さまによるもの。三という数字は「青果」「水産」「花き」の三部門を表しているそうです。
こちらは、 江戸前のアナゴを2匹使い、丼に収まらないボリュームの「穴子天丼」。毎日20食程度しか提供されておらず、すぐに売り切れてしまうので、確実に食べたいなら、早めの時間の来店をおすすめします。
秘伝のたれは、明治時代からつぎ足して使っているそうです。
ご主人の新井晋吾さん。市場内の飲食店は、通常の飲食店よりも早い時間帯の営業が基本で、朝のせりが終わる時間から賑わいを見せるそう。