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【特集】龍子記念館企画展の舞台裏に密着!

JR大森駅と都営浅草線 西馬込駅の中間あたり、閑静な住宅街の中に建つ、趣ある建物「大田区立龍子記念館」。近代日本画の巨匠・川端龍子の作品を収めたこちらの記念館では、2021年11月20日から「名作展『みなさんが選ぶ!龍子記念館コレクション』」という、面白い企画展が開催されています。その舞台裏に迫るべく、作品や記念館の魅力から、本企画にかける意気込みまで、主任学芸員の木村拓也さんにお話を伺ってきました!

 

※掲載している情報は公開日時点のものです。あらかじめご了承ください。

 

大田区立龍子記念館 外観

 

お話を伺った龍子記念館主任学芸員の木村拓也さん

近代日本画の巨匠・川端龍子とは?

1885年に和歌山市で生まれ、1966年に大田区で生涯を終えた龍子は、明治、大正、昭和という激動の時代を生きた画家です。大田区の地には、1920年から居宅兼アトリエを構えており、現在は「大田区立龍子公園」として整備されています。龍子記念館はこの居宅のすぐ隣に建てられました。


川端龍子

龍子の作風の一番の特徴といえば、壁画のような大画面の作品が多いこと。当時、日本画といえば「床の間芸術」といわれる小さな作品が主流でした。そんな中、龍子は「会場芸術」を主張し、自身の団体「青龍社」を旗揚げ。力強く豪放な筆致の作品を描き続け、戦前は画壇の風雲児として注目を集め、確固たる地位を築いていきました。
実際、来館すると、その迫力満点の大型作品から溢れ出るパワーに圧倒されます。


龍子記念館の展示室。大画面の作品は迫力満点。対面には龍子の像も。

龍子記念館は龍子自らが設計・設立!

龍子記念館は、なんと建築好きだった龍子自らが設計し、設立したのだそう。設立費用も、龍子が筆一本で築き上げた資産から支払われたといいます。当時、画家が自らの設計で美術館を建てたのは、日本初のことでした。
龍子記念館の竣工は、1962年6月6日。その日は龍子の喜寿(77歳)の誕生日でした。龍子は、喜寿という節目を迎えたこと、また、遡ること4年前の1959年に文化勲章を受章したことから、設立を思い立ったのだといいます。勲章の受章は、戦中戦後という激動の時代を乗り越え、大画面の作品制作を続けてきた功績が認められてのこと。龍子は、それを受け、自らの作品をきちんと後世に残し、より多くの人に鑑賞してもらいたいと考えたのでした。
設計には龍子のこだわりが随所に見られますが、中でも要注目なのが、上からみた形。龍子の本名は「昇太郎」といいますが、雅号(がごう)は「タツノコ」と書いて「龍子(りゅうし)」。雅号にちなみ、建物自体をタツノオトシゴや昇龍のような形にしたのです。館内に入ると、曲がり角が続き、すっといっぺんには見渡せない造りが、次の作品へのワクワク感をそそる効果を生んでいるようにも感じます。
※雅号…画家などが本名の他につける風雅な名

「こうしたアイデアや想像力も、龍子のすごいところだと思います。外観がお寺のような形になっているので、殿堂の中でありがたい仏画を見るようなイメージで造ったのかなという感じがしますね」と木村さん。


館内の様子

来館者の方々への思いを込めた企画展

コロナ禍では、文化施設やイベント会場等において、閉館や人数制限等を余儀なくされ、龍子記念館も例外ではありませんでした。また、感染対策を徹底し、開館できた期間も、新型コロナウイルス感染症を心配し、来館できなかった人も多くいたようです。そんな中でも来館してくださった方々の多くは、確固たる意思を持った方々だと木村さんは感じたのだそう。
「『龍子が大好きだから』というリピーターの方を始め、『コロナ禍であまり人がいないからこそ、自分が好きなこの空間を独占できそうだと思って来ました』とか、『この空間に来られて本当に元気づけられました』という方も。何かしら明確な目的や思いを持って来館してくださる方が、非常に多かったんです。」

そうした状況から木村さんは、コロナ禍にも関わらず、来館してくださる熱いファンの方々に何かしら恩返ししたいと考え、さらに「来館者の方にアンケートを取れば、結構良い反応がいただけるのではないか」と考えたのだそう。
そこで企画されたのが、「名作展『みなさんが選ぶ!龍子記念館コレクション』」です。所蔵作品の中から主な100点を大きなパネルに掲示し、期間を設けて、来館者の方々にアンケートを取りました。
「実際にやってみたところ、2,000人前後の一般来館者の内の400人程度、5人に1人くらいの方が書いてくださいました。アンケートとしては結構な割合ではないかと思います。しかも、自由記入欄に熱い感想を書いてくださる方もたくさんいらっしゃいました。」

【アンケートの取り方】
アンケートは作品を大きく4つ(「明治から大正時代」「戦前」「戦後」の時代に描かれた作品と「龍子が描いたカッパ」)に分類し、その中から好きなものを選んでもらう形式で実施。こうすることで、普段とは違った龍子の作品に触れられる楽しみもありそうですね。

気になるランキングは!?

このようにたくさんの思いが詰まった人気投票。その結果がとても気になりますよね。
「総合部門の1位と2位の作品はある程度予想できましたが、龍子の描いたカッパ部門の1位はちょっと意外でした。龍子はカッパの作品をたくさん残していて、所蔵作品全140点中20点がカッパの作品なんです。その中には龍子らしい大画面のカッパの作品もあるので、そうした作品に票が集まるのかなと思っていたのですが…。」と木村さん。
果たしてどの作品なのか、ぜひご来館いただき、ご覧ください!

豆知識
龍子とカッパ


「似てる」
大田区立龍子記念館蔵

戦後になると、龍子は好んでカッパを描くようになります。ただ、妖怪絵巻に出てくるような怖いカッパではなく、龍子のカッパは人間味があふれています。お酒を飲んだり、ダンスを踊ったり、オリンピックに刺激を受けてバタフライで泳ぐカッパなど、龍子のユーモアがあふれる表現がなされています。

皆さんからのコメントも作品と一緒に展示!

作品には、皆さんからいただいた熱いコメントも一緒に展示されているのだそう。こうした、皆さんの思いを知ることができるのも、本企画展の大きな魅力ではないでしょうか。
「来館者からのコメントには、龍子を初めて知った作品など、出会いについて書いてくださっているものや、『この色に、大きさに圧倒された』と見た時の感動を書いてくださっているものが多くありました。それは、逆の視点から作品を理解することにもつながり、私自身も非常に興味深かったです。また、イチオシの作品の欄に『龍子記念館』と書いてくださった方も。『大好きな空間で、展示替えがある度に訪れています』というコメントは、コロナ禍においてとても励みになりました」と木村さん。
確かに、記念館の中にいると、龍子記念館自体も、とても素敵な一つの大きな作品という感じがしてきますね。

皆さんのイチオシの作品は…?
皆さんから集まったコメントの一部を紹介します。他にもたくさんあり、読んでいると胸が熱くなるものばかり!ぜひ、実物作品とともにチェックしてみてください。


大田区立龍子記念館蔵

【渦潮】
龍子記念館で一番初めに出会った作品でした。私のもやもやを吹き飛ばす圧倒的な作品の力に元気をもらい、それ以来ファンになりました。


大田区立龍子記念館蔵

【龍安泉石】
コロナで大好きな京都に行くこともできませんでしたが、思いがけず出会えてほっこりうれしくなりました。


【龍巻】
10〜20年ぐらい前にたまたまこの作品を見た。青と白ベースで、クラゲの美しさを描いた大作の作品として龍子を意識し始めました。

大きな作品ゆえに、展示替え作業がすごい!!

龍子の作品は大きな作品が多いため、展示替え作業もとても大変なのだとか。今回は、その様子も見せていただきました。美術品専門の運送・陳列などを行う業者さんが、一つひとつ慎重に作品を運び、展示していきます。








展示替えの様子。大きくて重いため、その取り扱いも難しく、大人数で慎重に作業が行われていました。

ズバリ、本企画の魅力とは?

皆さんの龍子への愛が伝わってくる本企画。人気作品が勢揃いし、皆さんのコメントも添えられたところを見てみたい気持ちでいっぱいになりました。
「龍子記念館で人気投票という形の展示、いわゆる双方向企画を行うのは初めての試みになります。今年は、龍子作品を葛飾北斎の作品や現代アートとコラボレーションした企画を実施しました。特徴的な企画で、非常に充実した内容だった反面、じっくり見ないと全部味わえないような重厚な展示が多かったのも事実です。しかし、本企画展はあくまで皆さんの好きな作品という展示。軽い気分でふらっと立ち寄っていただいて、楽しみながら見ていただけたらなと思っております。作品のセレクトも、添えるコメントもお客様の手によるものであり、いわば今回は“お客様への大感謝祭”というイメージです。リピーターの方はもちろん、これまで龍子記念館に来たことがないという方も、ぜひ気軽にいらしていただけたら嬉しいです」

最後に、木村さんイチオシの作品は?とお伺いしてみました。
「『虎の間』ですね。2022年が寅年なので、ぜひ見ていただきたい作品です」というご回答がありました。
本企画展では「虎の間」ももちろん展示されています。ぜひ、見る者を圧倒する龍子の作品と、皆さんから集まった熱いコメントをチェックしに、龍子記念館にお越しください!


木村さんイチオシの作品「虎の間」の前にて

「バーチャル美術館」でも龍子の作品が見られます!

当サイトで公開中の、バーチャル美術館「UniqueOta Virtual Museum」には、「大田区立郷土博物館」と「大田区立龍子記念館」の展示室があり、こちらでも龍子の作品を見ることができます。まずは以下のページから、バーチャル美術館についてチェック!サイト内の「入口はこちら」から中に入り、正面に進むと「龍子記念館 展示室」が。中に入ると、龍子の作品10点を見ることができます。

バーチャル美術館「UniqueOta Virtual Museum」(2021.2.9公開)


「龍子記念館には常設展示室がないため、龍子の代表作をいつでも見ることができるわけではありません。バーチャル美術館では、デジタルの高精細の画像でいつでも龍子の代表作を眺めることができるのでオススメです」と木村さん。実際の龍子記念館はもちろんのこと、いつでもどこでも、龍子の作品をゆっくり鑑賞できるバーチャル美術館もぜひ、覗いてみてください!


名作展「みなさんが選ぶ!龍子記念館コレクション」


会期/(前期)2021年11月20日(土)~2022年1月30日(日)
   (後期)2022年2月5日(土)~4月10日(日)
開館時間/9:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日/毎週月曜日(祝日の場合はその翌日、12月29日(水)~2022年1月3日(月)は年末年始休館)
入館料/大人(16歳以上)200円 小人(6歳以上)100円
※65歳以上(要証明)、未就学児は無料
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、会期を変更する場合がございます。詳細は次のHPからご確認ください。
https://www.ota-bunka.or.jp/facilities/ryushi

大田区立龍子記念館
住所/大田区中央4-2-1
電話番号/03-3772-0680
開館時間/9:00〜16:30
休館日/月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、その他、展示替え休館あり
HPhttps://www.ota-bunka.or.jp/facilities/ryushi
※最新情報はHPからご確認ください。
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