“徳川幕府という大組織の内側に身を置き常に体制に対して改革を提言していた。幕府側の交渉人として戦火から江戸を守った幕末の偉人。” といえば勝海舟ですよね。
海舟の言動や人となりを 辿 っていくと、現代にも繋がる進歩的な考え方が見えてきます。 2019年9月、大田区に開館した「大田区立勝海舟記念館」では実物資料展示はもちろん、海舟の言葉や一生が辿れるコンテンツが充実しています。その足跡に触れながら幕末という激動の時代を生き抜いた海舟という人物を一緒に 紐解 いていきましょう。
※掲載している情報は公開日時点のものです。あらかじめご了承ください。
“勝海舟の言葉”は現代に通じる「海舟ブレイン」
ー行いは己のもの。批判は他人のもの。
わしのあずかり知らないことだ。ー
[行蔵(こうぞう)は我に存す。毀誉(きよ)は他人の主張、我に関せず]
この言葉は福沢諭吉が著した『痩我慢の説』で江戸無血開城の経緯と身の処し方を福沢に批判された際に返答した言葉です。
この、自身が発した言葉こそ、海舟という人物の本質をよく表している言葉ではないでしょうか。
行いに対しての他人の評価まで面倒見きれんよ、そんな突き放したような海舟の口ぶりが聞こえてきそうな言葉ですが、伝えたかったのは「発したことも含めて他人は他人、自分が責任を負うものではない」という海舟ならではの解釈の仕方。
もちろん福沢の批判に対し攻撃しているわけではなく、実際にはこの言葉の前後に福沢へ感謝の言葉も連ねています。海舟がどのような考え方を規範に行動していたかがよく解ります。
さて、海舟はこのように名言、格言の類がとても多いことでも有名です。そのような海舟の言葉で生き方や想いを伝えるコーナーが「海舟ブレイン」です。
「人生哲学、生き方、処世術」「国のあり方」「人物評」などカテゴリーに分けられた海舟の言葉をプロジェクター映像でわかりやすく知ることができるビジュアルコンテンツです。
こちらのコンテンツに収録されている海舟の名言のいくつかを紹介しつつ、海舟という人物を紐解 くヒントを一緒に探してみましょう。
「人はなんでも範囲を脱しなくちゃいけないよ。眼を大局に注がなくちゃいけないよ」
〜超越と大局〜
小さな枠組みに囚われていては見えない事がある。勇気を持って枠組みの外から物事を見定めることが肝要だ。そんな意味の言葉です。とても進歩的な考え方ですし、独特の客観的な視点を感じますね。
封建社会の中にあって現代にも通じる哲学を持ち実践していた海舟の本質がよく現れている言葉です。
「人は逆境に立たなけりゃほんものじゃないよ。おれなんぞは五十年の間逆境にばかり立ち通しだったよ。おかげで人生の呼吸は十分に会得したよ」
〜逆境こそ成長の糧〜
この言葉は46歳の時に江戸と日本の命運を背負い西郷隆盛との会談に臨んだ海舟が発したからこそ説得力を持つ言葉なのではないでしょうか。
勝海舟の一生を紐解き人物像に迫る「海舟クロニクル」
海舟が行なった仕事の中でもっとも重要な歴史的出来事の一つが、先にも挙げた「江戸無血開城」です。
慶応4年、新政府方と徳川方の降伏条件の交渉に山岡鉄舟、大久保一翁らと共にあたった海舟。無血開城の直前の4月9、10日に軍艦・武器引き渡し等についての最終交渉を行うべく、池上本門寺にて新政府方の参謀と相対しました。
こちらではその事実を時系列でわかりやすく理解できる年表に加え、その時に同行した大久保一翁が海舟に宛てた書簡などが展示され、歴史的事実を様々な側面から知ることができます。
そして後年、徳川慶喜の名誉回復のために尽力するなど、あまり知られていない維新後の海舟の動静も知ることができます。
このように海舟の歴史を年表と実際の資料展示で見せてくれるのが「海舟クロニクル」です。
部屋の中央に円筒形の年表を配し、外側には年表にある出来事を裏付けてくれる資料等(時期により展示内容は変わります)が展示してあります。書簡などはPDFデータ化されているものがあれば中身を閲覧することも可能なタッチパネルモニターを設置。
原典を細部に至るまで読み解くことができるので歴史好きにとっては大変嬉しいサービスです。
CGの咸臨丸が見られる「時の部屋」や期間限定企画展示も
海舟をより深く知るためのコンテンツはまだまだあります!
例えば咸臨丸でのアメリカ航海譚を3面スクリーンに映し出すCG映像で再現した「時の部屋」。2階には海舟クイズなどを楽しめる「海舟ゾーン」を始め、海舟が愛した洗足池の紹介や別荘・洗足軒のジオラマが展示されている洗足池ゾーン。この記念館として活用した海舟ゆかりの建物・清明文庫を知ることができる「清明文庫ゾーン」があります。
ちなみにこの記念館のすぐ脇にある洗足池公園には、海舟夫妻のお墓もあるんです。ぜひ訪ねて行ってほしいですね。
“勝海舟”の生き方には現代を生きるヒントが溢れている
江戸幕府の中において、当時としては合理的で現実主義者だった幕臣勝海舟。しかしその徹底したリアリズムの奥底には愚直なまでの「誠実さ」と「信念」があったのでしょう。この記念館に足を踏み入れて様々なコンテンツにて海舟に触れていくうちに、そんな彼の人物像が浮かび上がって来ました。
ぜひこの記念館を訪れていただいて、海舟の想いを感じてみませんか。生き辛いといわれる現代にも通じる生き方のヒントが隠されているかもしれませんよ。
※休館情報など最新情報は大田区公式HPからご覧ください。
勝海舟と所縁の深い旧清明文庫の建物を活用し2019年9月にオープン。
住所:〒145-0063
東京都大田区南千束二丁目3番1号
営業時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜、年末年始、臨時休業日
入場料:一般300円、小・中学生100円