産業

【特集】創造力に溢れたものづくりの街 大田区を楽しむガイド

「ものづくりのまち」として知られる東京都大田区。昭和から平成にかけてかなり数は少なくなったとはいえ、今でも約3,500もの町工場が日本の製造業を土台から支えているんです。とはいえ、企業相手の専門加工業者が大半を占めるぶん、なかなか私たち一般の人々がその存在を意識する機会は少ないですよね。 今回はそんな大田区の「ものづくり」の一端を垣間見ることのできるスポットをご紹介していきましょう。

※掲載している情報は公開日時点のものであり、変更となる可能性があります。お出かけの際は事前にご確認ください。

【蒲田切子】“使う喜び”を 感じさせてくれるガラス工芸品



「切子」とはガラスの表面にハンドカットにより細工を入れる技法のことで「江戸切子」は日本が誇る伝統工芸としてとても有名ですよね。そんな江戸切子の伝統を受け継いだオリジナルブランドが大田区にあるのをご存知ですか?
その名も【蒲田切子】。元々は現オーナー鍋谷 孝さんのお父様が江戸切子を製造する工場を営んでおり、その技術を生かしてオリジナル製品を企画販売するなかでブランドとして確立させていったのが蒲田切子だったのです。



蒲田切子を扱うフォレスト代表、鍋谷 孝さん(写真)はこう語っています。

「江戸切子はとても素晴らしい工芸品ですし、研鑽を積んだ日本の職人技が詰まった美しい芸術品でもあります。ただし高品質で芸術性も高いぶん、一般的な江戸切子はやはり高価です。一般的なサイズのグラスでも万単位の価格になります。
蒲田切子は、そんな切子細工の美しさと工芸品としての素晴らしさをもっと気軽にたくさんの人に知ってもらいたいと願って作り上げたブランドです。」



「蒲田切子は、切子細工としての品質に加えて使い心地の良さ、使い勝手の良さを追求しています。例えばオリジナルデザインとなる『水鏡』(中央のグラス)は持った時に自然と手に吸い付くような優しいホールド感を目指してデザインされた玉模様が特徴です。日常で使っていただけるリーズナブルな価格設定もポイントで、この『東京ウォーターグラス』という透明単色のシリーズは7,500円(税抜)と一般的な江戸切子に比べても安価です。」



「こちらは『蒲田モダン』というシリーズで、いわゆる色被せガラスを使ったタイプ。透明なガラスの上に色付けしたガラスを被せた二重構造をカットしているもので、切子細工といえばコレをイメージされる方も多いと思います。この色被せガラスカットは透明のものと比べて技術的にも工数的にもコストがかかってしまいますが、それでも蒲田切子ではこちらのぐい呑みサイズで10,000円(税抜)にさせていただいております。一般的なぐい呑みよりは高価ですが、それでも身近な存在として使っていただけるはずです!」



そう語る鍋谷さんですが、なぜ身近な存在としての切子細工にこだわるのでしょう。その答えは大田区の“町工場”ならではのものでした。

「大田区の町工場で作られるモノの多くは高尚なものではなく、人の役に立つものであったり、日常的に使える道具であったりといったものです。
江戸切子は近年の海外人気もあり、私は少し高価なものになりすぎた気がしていまして。しかし、父の代からここ大田区でガラス工芸業を営み、大田区で育まれた私たちであれば切子細工をもっと身近なモノにできるという想いがありました。そういった理由もあり、今も蒲田切子は大田区で切子作業をしております。
蒲田切子は使って頂いて愛着を抱いてもらえる。毎日の晩酌のお供として日常的に使えて、さらにちょっと贅沢感を味わえる。そんな道具としての“使う喜び”を感じていただけるとうれしいですね。」

手仕事ショップ・フォレスト/蒲田切子販売店
住所
大田区久が原3-34-13
電話
03-5748-7321
営業時間
平日 11:00~18:00 (土日祝 不定休)

【安久工機】ものづくりのアイデアを形にするお手伝いいたします!



あなたは自分のアイデアを形にしたいと思ったことはありませんか? 職場で、趣味で、「こんなモノがあったら便利なのになあ」「あんなことが出来るアイテムがあったら楽しいのになあ」そんな、ふと思いついたアイデアを実現してくれる会社が大田区にはあるんです!
その名も【安久工機】。町工場の多い地域の横の繋がりを活かし、あなたの希望を叶える窓口となってくれるところです。同社で経営企画を担当する田中 宙(ひろし)さんは言います。

「企業さんでも個人の方でも、こんなアイデアを形にしたい、実現したいという要望にお応えします!」

まるで夢のようなサービスですが、ではなぜこういったビジネスを始めようと思ったのですか?

「私の祖父が会社を興した当初から『ないものを作る』をモットーとした業態でした。大田区には高度な技術を持った多様な専門製造業者があるのですが、私たちはそういった町工場ネットワークの強みを活かし、案件によってそれぞれの専門技術を使い分けることでお客様の希望を叶えます。安久工機は窓口とコンサルティング&製造マネージメントとして案件を受けるまとめ役。いわば町工場とユーザーさんを繋げる存在ですね。」

では、実際にどんな“モノ”を作っているのでしょう?



こちらはある盲学校の先生からの依頼で、視覚障害者でも絵が描けるペンができないかという要望から製作した『視覚障害者用筆記用具 触図筆ペン【ラピコ】』。インクにはミツロウを使っており、熱を加えて液状化したミツロウで描くとミツロウが硬化し、描いた線が凸型になるという製品です。 数年前に登場した3Dペンのイメージに近いですが、この形になるまでに実に10年もかかっているのだそうです。



「紆余曲折ありまして完成までに時間が掛かりましたね。社会貢献的な意義も大きかったので最終的には助成金も付いたのですが、当初はその先生の個人依頼として始まったプロジェクトなんです。最初のアイデアラフスケッチもまだ残っていますよ。」
と見せていただいたのがコチラ。



「これを元に設計図を起こして、地元企業の皆さんにも協力いただいて幾度となく試作も繰り返しました。当初ははんだゴテのようなイメージで進めていたのを覚えていますよ(笑)」
下の写真は歴代の試作品の数々。右端が一番最初の試作品で、左にむかって改良されていったものです。



つまりは企画設計から製作までを請け負うビジネスとなっているわけですが、お話を聞いていてもわかるように、実際には非常に苦労の多い事業であることがわかります。なぜそのような苦労をしてまで?

「ものづくりのまち大田区の独自性を担っている“町工場”を盛り上げたい、そのための活路の一端になれればという想いもありますが、やっぱりアイデアを形にした時の達成感、そしてお客様に喜んでいただけるのがなにより嬉しいんですよ。
最近ではクラウドファンディングで資金を集めたベンチャーのお客様なども増えていますし、地域に根ざした自由なものづくりができる気風が生まれつつあるのを感じますね。」
※写真右は宙さんのお父様である安久工機代表・田中 隆さん。職人歴35年のいわば“ものづくりのまち大田区”を体現する大ベテランなのです。



ちなみにそんなクリエイティブな社風を持つ同社だからこそ生まれたオリジナル商品もあります。こちらは工事現場などで使われるカラーコーンを折り畳み式にした「パタコーン」という商品。なんと警察の方々の「パトカーに積みにくい…」という要望から発想されたアイデアなのだそう。



高度な技術集団が集まっている大田区だからこそできる“あなたのアイデアを叶えてくれる町工場”。こんなモノ作れないかな、なんて考えている人はぜひ一度相談してみることをお勧めします!
「これまで品質が最重視される医療関係を主にやってきたので、クオリティには絶対の自信を持っていますし、アイデアを実現する力は大田区の町工場ならではだと自負しています。
アイデアをお持ちの方、起業したい方、個人の方、もちろん企業の方でもまずはご相談下さい。夢を叶えるお手伝いをさせていただきます!」


有限会社 安久工機
住所
大田区下丸子2-25-4
電話
03-3758-3727
FAX
03-3756-1250
営業時間
平日 9:00~12:00/ 13:00〜17:00(土日祝 定休)

【ギャラリー南製作所】工場跡地をカルチャー発信基地として活用!



一時期の活況と比べると数が減っているという大田区の町工場。時代の流れとはいえ寂しい限りですが、廃業した工場スペースを再活用しよう!という動きもあるのです。
今回紹介する【ギャラリー南製作所】は、お父様が営んでいた工場スペースを何かに活用できないかと考えて娘さんである現オーナーの水口惠子さん(旧姓南)が始めたレンタルギャラリースペースです。



スタートして今年で5年、100平米超という広いスペースをフルに活用できるので、アート展示はもちろん、音楽ライブ、演劇、パフォーマンス披露など様々なカルチャーイベントに利用されています。ギャラリー南製作所主催の企画展も年2回ほどのペースで開催。昨年は「地元の女性作家展」と題して、高頭信子さんや大原瑩子さんなど大田区で活動する女性作家9人の作品を展示する企画展も行なっています(写真上と下)。



「父が亡くなってこの工場をどうするかとなった時に、私はとてもこの場所が好きだったので、なんとか残せないかと考えました。私自身アートがとても好きでしたので、こういう形でのギャラリー運営を始めました。
昨年の『地元の女性作家展』では作品展示に交えてギャラリートークやコンサート、3Dスキャニングのデモンストレーションなど、様々な試みも盛り込んで大変盛況でした。今年も秋に第2回目の開催(9/13~10/5)を予定しています。」(水口惠子さん)



さらにこのギャラリー南製作所では、アート作品展示やジャズ演奏会などのアートイベントに加えて、地域の子供を招いての体験会や各種ワークショップなど地域貢献の場としても大変有意義に活用されています。



「工場跡の風合いをそのまま残したスペースは他にはない空間演出が可能かと思います。天井には鉄骨の梁が八方に伸びており、ライティングレールの代わりをしてくれます。アコースティックな音の響きも悪くありませんし、⾳響設備も一通り整えておりますので、ちょっとしたイベントなどでも使いやすいかと思います。利用希望の方のご相談お待ちしています!
 なお、今後の収束状況によっては、展示、ギャラリートークなどのイベントが延期もしくは中止の可能性もありますので、ご来場の際も必ずブログか電話でご確認ください。新型コロナウイルスに負けず、安全に十分配慮し、優れた芸術を楽しむ喜びを取り戻そうという決意で準備を進めています。ご来場お待ちしております!」

ギャラリー南製作所
住所
大田区西糀谷2-22-2
電話
03-3742-0519
メールアドレス
2222gmf@gmail.com
開廊時間
12:00~19:00
(企画によって時間は変わります)
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