羽田空港にほど近い大田区東糀谷にある、洗練された印象のこのビルが「FARM HANEDA」。大田区内で鉄工業を営む企業(大塚鉄工株式会社)が、新規事業のために別会社として設立した「LEAF FACTORY TOKYO」が運営している都市型植物工場です。
植物工場が設置されているのは、2階から4階までのフロアです。約500㎡のスペースにリーフレタスなどの野菜を育てる棚がずらりと並び、白や青、赤などのLEDの照明が照らしています。
各フロアには、水耕栽培の棚が並ぶ。主に栽培しているのは、フリルレタスやレッドファイヤーなどのレタス類
会社のロゴや工場の内装の細部まで、一般的な植物工場のイメージとはかけ離れた、おしゃれな雰囲気にこだわっているのは、「若い人たちが、やってみたいと思えるような農業のスタイルを作りたい」と考えたからだそう。代表取締役の大塚章弘さんにお話をうかがいました。
代表取締役の大塚章弘さん(右)と技術を担当する氏家健登さん(左)
Q:異業種から農業に参入した理由を教えてください。
A:産業構造の転換を見据えた、新規事業として取り組んでいます。
親会社である大塚鉄工株式会社は、ここ大田区で創業し、約80年間にわたってトラックや建設業界向けの部品などを製造しています。今後の産業構造の転換を見据えて、新規事業に取り組みたいと考えていたところ、浮上した案の一つが「農業」でした。
一般的に、農業といえば、農地がない都市部での実施は難しく、体力が必要なイメージがあります。しかし、「植物工場」モデルを導入することで、そのイメージを覆し、「都会のビルで若者たちが生き生きと働く姿」を実現できたら面白いのではないかと感じました。そんな思いから、しばらくは社内の会議室に栽培棚を設置して試験的に野菜を育てていたのですが、ある時、この分野を専門とする大学の先生と知り合うことができ、産学連携でご指導をいただきながら、2022年に本格的な事業としてスタートさせました。
従来の農業に比べ、少ない水量で効率のよい栽培が可能だそう
Q:栽培している野菜の量と屋内での水耕栽培のメリットについて、詳しく教えてください。
A:1日あたり約1,000株を出荷しています。新鮮で高品質の野菜を安定供給できることがメリットです。
2023年の夏ごろから量産化を進め、2024年8月現在で、一日に約1,000株(リーフレタス換算)を出荷しています。この工場のキャパシティとしては、最大で一日に1,920株の収穫が可能です。
都内の飲食店からの受注生産が大半で、自社の保冷車で配送を行っています。鮮度が良くて安定した品質の野菜を継続的に供給できることは、飲食店にとっても大きなメリットとなるようです。また、屋内で水耕栽培をしているので、生菌数が少なく、病害虫に悩まされることもないため、栽培期間中は農薬を一切使わずに野菜を育てることができるのも利点ですね。さらに生菌数が少ないことで、冷蔵庫で2週間ほど新鮮な状態を保つことができます。
洗わずに使用できるため、飲食店のオペレーションの効率化にも役立つと喜ばれています。
自社配送により、取引先の声を直接聞くことができるのも強みだといいます
Q:生産する上でどんなことを工夫されていますか?
A:植物に最適な環境を人工的に作り出し、植物の生育を管理しています。
LEDの照明や風の当て方、温度、養液の濃度などの環境を作物の種類や生育段階に合わせて、人工的にコントロールしています。
種を蒔いてから約40日、露地栽培の1.5倍から2倍ぐらいのスピードで出荷できる大きさに育ちます
例えば、同じ種類のレタスでも、光の当て方によってこんなに葉の色が変わるんですよ。飲食店向けには、お皿が華やかに見える右側のレタスが人気ですね。
光の当て方により、葉の色が変わるそう。右側の葉の色は、アントシアニンという抗酸化作用のある天然色素によるもの
人工的に管理しているからこそ、このような作物の質(見た目、食感、食味など)のコントロールが可能です。その分、設備費・電気代などのコスト面が高くつくのが、植物工場の難点ではありますが、お取引先の飲食店には、それを超えるメリットを感じていただけています。
現在主力としている作物はレタス類ですが、飲食店のオーダーに合わせてさまざまな品種の栽培にも挑戦し、植物工場だと難しいとされるサラダほうれん草やラディッシュの量産化にも成功しました。販売の基準に達しないものは、ジェラートや和紙といった新しい商品にして、なるべく廃棄しないようにしています。植物の成長をずっと見ていると愛着が湧くので、スタッフは、栽培している作物を「この子たち」と呼んで可愛がってくれるんです。そういった気持ちも、栽培方法の改良や廃棄を減らすための新しいアイデアの源になっていますね。
私たちは、当社の事業を「社会課題解決型農業」と位置付けています。配送距離の短縮や消費期限の延長、廃棄物の削減などは、SDGsの観点からも重要な意義を持つものだと思います。
販売できないレタスを使用したオリジナルジェラートもスタッフのアイデアから生まれた商品(左)。和紙の開発にも取り組んでいます(右)
行ってみよう!「FARM HANEDA」
Shopスペース(左)とLab&Workshopスペース(右)
「FARM HANEDA」1階は、Shopスペースとなっており、一般の人たちでも採れたての野菜やオリジナルグッズ、レタスを使ったオリジナルジェラートを購入することが可能です。また4階のLab&Workshopスペースでは、地域の小学校の児童などを対象に見学会を実施。一般向けの見学会も不定期で募集していますので、LEAF FACTORY TOKYOのインスタグラム・公式LINEまたは店頭にてぜひチェックしてみてください。