まごめ園は都営地下鉄浅草線馬込駅から徒歩10分のところにあります
社会福祉法人大田幸陽会が運営するまごめ園は、1993年4月に設立されました。まごめ園は「就労継続支援B型」と「生活介護」の2事業で運営されており、合わせて63名(2023年9月現在)の利用者がいます。
就労継続支援施設とは一般的な事業所で働くことが難しい障がいのある方に対し生産活動などを支援する場で、A型とB型の2種類があります。A型事業所では雇用契約を結んで働く一般就労に近い形がとられ、まごめ園のようなB型事業所は利用者の年齢や体力に合わせて、無理のない範囲で働けるような配慮の下で就労することができます。
まごめ園の自主生産品は焼き菓子が多く、中でもパウンドケーキは大人気で、クリスマスにはプレミアムバージョンが販売されるほどです。創業時から継ぎたしているシロップに漬け込んだ、自家製ラムレーズンの味わいが特に魅力の逸品です。
ワークショップは、明るい陽射しの差し込む中庭で実施。参加者は保冷剤入りのタオルを巻いて残暑対策も万全です
今回のワークショップは、(公財)大田区文化振興協会の呼び掛けに希望した施設が対象です。
応募理由を施設長の竹村直巳さんに伺いました。
創立30年を迎えるまごめ園の施設長 竹村直巳さん
――竹村直巳さん:
焼き菓子の味には自信があります。ただ、いかにも『福祉施設で作りました』という印象を与えるパッケージが悩みの種でした。今回はアーティストの力を借りてセンスの良いパッケージを作れたらという期待に加え、開園30周年を記念した新たな自主生産品制作のヒントを得ることを目的に参加を決めました。当園を利用する皆さんの障がい特性はさまざまです。主力品の菓子製造は手順を間違えてはいけないため、全員が業務に携われるわけではありません。長時間集中することが難しい利用者が描いた1本の線や丸い図形が、アートの力ですてきなデザインになれば、今まで生産活動に携われなかった方にも就労機会をつくることができます。その可能性にも挑戦したいと考えました。
ワークショップの現場に潜入!
参加者の前で、作業説明をするアーティストの荻野さん
ワークショップでは、商品販売時に封入している“ありがとうカード”の新デザインを試作することにしました。大田区内を拠点に活躍するアーティスト・荻野夕奈さんを中心に進行し、荻野さんが仲間と共催するWORKSHOP NOCONOCOのメンバーがサポートに入ります。「今日はカードと封筒を作ります。そこに用意したシールを組み合わせて、3点セットのパッケージにすれば完成です」と、荻野さんは見本を掲げながら説明しました。
アーティスト/荻野夕奈さん
花や人物といった、作者にとって身近な生物を主なモチーフにし、半抽象画を描くアーティストです。具体的な描写から徐々に抽象的な形態へと再構築させ、さまざまなイメージの形の連鎖や軽やかな色のリズムを生み出していくアーティストです。東京芸術大学大学院美術研究科修了/国内外を問わず多数のグループ展に参加、またニューヨークなど各地で個展を開催しています。
WORKSHOP NOCONOCO(ワークショップノコノコ)
4歳から大人、障がいのある方までが、同じ場所で制作し感性を高め合う場として大田区障がい者総合サポートセンターを拠点に活動しています。さまざまな道具や材料を用い、よく観察し、広い視野で考える力を身に付け、作品の多様性を感じながら自分の作品と向き合うよう、講師はアドバイスをします。美大受験生や基礎デッサンを学びたい方に関しての、専門的な指導も併せて行っています。
まごめ園から「我こそは」と希望した利用者8名がワークショップに参加しました。作業はデザインをするチームと、パッケージをするチームに分かれて行います。
牛乳パックを再生した紙に、独創的な模様のスタンプを押していきます
まずはデザインチームが、カードと封筒になる紙にスタンプを押していきます。最初はおそるおそる押していた参加者も、コツをつかむとすぐにリズミカルに作業を進めていきました。
どのように作業すれば良いのかいつでも確認ができるように、見本がテーブルに貼られていました
「スタンプやシールは、まごめ園の利用者が描かれたイラストや文字を使ってデザインしました。作業のしやすさと、ランダムに押しても“味”になるというメリットからスタンプを選びました」と荻野さん。デザイナーが、テーブルを回りながら、スタンプを押す位置や力の掛け具合をアドバイスしています。スタンプを押し終わった紙は、パッケージチームに引き渡され、封筒の形に紙を折ったりのり付けをしたりという作業に入ります。
のりが思うように接着せず、パッケージ担当チームは悪戦苦闘気味です
封筒ののりが固まったら、すでに製品として仕上がっているシールとカードの3点をセットにして包装します。荻野さんがデザインしたまごめ園のキャラクターのカッパがあしらわれた薄紙の帯でそれらをひとまとめにすると、商品としてのクオリティがグッと高まりました。
薄紙でできた帯で巻いたら、その帯を透明なシールで留めます
最後に商品を透明な袋に詰めれば、作業は終了です。ところで「まごめ園でなぜカッパなのですか?」と尋ねると「近隣にある龍子記念館にちなみ、川端龍子が好んだモチーフとして選びました」と竹村施設長が教えてくださいました。
アートの力をプラスすると、良い効果が表れる
ワークショップで工夫された点について荻野さんに伺いました。「私たちプロが提供できるのは専門的な知識です。色には『心地良いバランス』があります。見ていておしゃれだと感じていただけるような、思わず欲しくなるような配色を選びました。ワークショップにはデザイナーも参加することで、より実践的なアドバイスやサポートができるよう心掛けました」
完成品。かわいらしい色合いに、カッパのイラストが描かれた帯が商品のクオリティを上げています
ワークショップのために1か月もの時間をかけて、全体デザインを担当したnoconocoの小川真穂さんは「完成見本は用意しましたが、その通りにできず “失敗”とされるようなものでも“味”になるデザインを心掛けました。みなさん楽しそうに取り組んでくださって良かったです」とホッとした表情。小川千尋さんは「初めての取り組みだったので不安はありました。でも丁寧にスタンプを押す方や、エネルギッシュに押す方など、それぞれの個性が出た面白いカードができました」と笑顔で完成品を眺めていました。
荻野さん(中央)を囲んで、noconocoデザイナーの小川真穂さん(左)と講師の小川千尋さん(右)
荻野さんには、障がいのあるご家族がいるそうです。「誰もが働かなければいけない時代になり、家族が四六時中サポートできる環境ではなくなってきています。だからこそケアする側の負担を減らし、障がいがあるが故にうまくできなかったこと、失敗やミスだと思えるような部分も魅力となるような商品を作り、それらによって利益を出せるような仕組みをつくることが重要ではないでしょうか。アートやデザインというと、敷居を高く感じる施設の方も多いかもしれませんが、ぜひ気軽にプロの力を借りてください。大田区は環境が整っています。+ART活動にも期待をしています」と、今後の展望を語ってくださいました。
小林さん(左)と日高さん(右)。完成品を持って記念撮影
本日の参加者にも感想を伺いました。小林さんが「ハサミで切るのが楽しかった」と言うと隣にいた日高さんも「ハサミ使うの上手だったよね」と笑顔を見せます。さらに日高さんは「またこういうワークショップがあったら呼んでください。絶対呼んでください」と力強く答えてくれました。完成度もさることながら、参加者の満足度の点でも非常にクオリティの高いワークショップとなったようです。楽しく取り組んで、自主生産品の魅力が高まる+ARTプロジェクト。これからの展開が期待されます。
第49回 大田区障がい者文化展開催
大田区では、区内在住で障がいのある方、またはそのご家族を対象とした障がい者文化展が今年も開催されます。絵画、写真、書道、彫刻など、数々の力作が展示されており、見応えがあると評判です。令和5年度は12月14日(木)から12月20日(水)まで、池上会館1階の展示ホールで開催されます。ぜひ文化展を鑑賞してみてはいかがでしょうか。
障がい者文化展
日時:令和5年12月14日(木)~12月20日(水)9:00~17:00
場所:池上会館 1階展示ホール(大田区池上1-32-8)
入場無料/有料駐車場あり
大田区の新プロジェクト+ART特集はいかがでしたか。アートの力を借りながら魅力ある自主生産品づくりを行う福祉施設の取り組みが、これからもどんどん増えていくと良いですね。
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