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【特集】大田区の伝統工芸に迫る!匠たちの熟練の技ここにあり!

大田区はものづくりのまちとして広く知られていますが、精密機器や部品を作る町工場だけではなく、「伝統工芸」も多く存在します。伝統工芸と聞くと、経験豊富な職人が特別な技術を駆使して創り上げる、芸術作品といったイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。確かに、熟練の匠の技が紡ぎ出す作品の数々は、とても崇高で美しいものばかりですが、そのほとんどが庶民の生活に当たり前のように存在していた日用品や道具なのです。多くのものが機械によって作られ、簡単に手に入ってしまうことの多い現代。生活に必要なものは“手”で作るしかなかった時代から受け継がれた技術は、決して特別ではなく、もっと身近なものであり、大切な日本の文化として、未来へつないでいくべきものであると言えます。

 

古き良き時代から脈々と受け継がれた日本古来の技術が伝統工芸であると同時に、海外由来の技術や現代になってから新しく生まれた技術も、これから日本の文化のひとつとして残していきたいものであれば、それもまた伝統工芸として、守り、育てていくべきものであると考えます。

 

今回は、大田区で活動されている伝統工芸士にお話しを伺いながら、伝統工芸の魅力を紹介します。

クローズアップ伝統工芸

数ある伝統工芸の中から、「和竿」と「フルーツカービング」のレジェンドの工房を訪ね、素晴らしい技を見せていただきました。

和竿職人 吉澤 均さん

和竿とは、さまざまな竹を接いで作る釣り竿のことです。子供の頃から釣り好きだった吉澤さん。自分のための和竿が作ってみたくて、仕事の合間に和竿作りの名人である吉田喜三郎氏(横浜マイスター・鶺鴒)のところに通い詰めていました。そのうち和竿作りの虜となり、いつしか生業となっていたそうです。現在は、「竿好」という名の釣具の工房を営んでいます。

店舗を構えているわけではないので、電話連絡をして工房にお邪魔させていただきました。


吉澤さんが手をかけているのは、漆を乾かすための漆室(うるしむろ)。何度も何度も塗っては乾かしを繰り返し仕上げます。
和竿の製作は、素材となる竹を探してくるところから始まります。しっかり水分を抜くために、約3年間、竹を自然乾燥させます。そこから3カ月~半年ほどかけて作る和竿。出来上がってからも、実際に使ってみて、手直しすることもあるそうで、納得のいくまでじっくり時間をかけて作りこみます。

吉澤さんが作っているのは、和竿の中でも海釣り用の「横浜竿」。竹の採取から完成まで、おおよそ14の工程があります。その一部を見学させていただきました。

【火入れ】
竹を火であぶり、矯め木(ためぎ)という道具を使って曲がりやクセを直します。3年間も乾燥させたにもかかわらず、まだ水分が残っていて湯気がたちのぼります。火入れは、竿を強く丈夫にもしてくれるのだそう。


竹の曲がりを直すのに使う「矯め木」。竿の太さに合わせて様々なサイズがあります。すべて樫や桜の木を削って、自分で作るのだそう。

【糸巻】
竿の補強と仕上がりを美しくするために、漆を塗る前に絹糸を巻き付けます。できあがると見えなくなってしまう部分がほとんどですが、とても重要な作業です。


【漆塗り】
強度と見映えのため、何度も塗ります。そのたびに漆室で乾かします。最低でものべ100回は塗り重ねると聞き、丁寧に心を込めて繰り返す作業工程の多さに驚くばかり。

伝統的な漆の塗り方「根来塗り」(ねごろぬり)をし、研ぎ出しで模様を作ります。専用のサンドペーパーで削り具合によって模様を生み出すというもの。まさに匠の技!


肘アテは、カワハギやシロギスの竿に取り付けられるもので、黒檀などの比重の重い木を使います。


左から、カワハギ用、シロギス用、カワハギ用の竿。肘あてがついているのが特徴。

吉澤さんの作る「横浜竿」は、明治初頭に横浜・本牧の漁師が漁のために使っていた竿で、浜辺に群生していた雌竹を切り出し、セミクジラのヒゲを穂先にすげこんだもの。粋な遊び文化として発展した「江戸和竿」とはまったく異なる作りです。

ズバリ和竿の魅力は?と伺うと、「かかった魚の微妙な引きがダイレクトに伝わってくるのが醍醐味。感度の良さでは、和竿の右に出るものはないと思うね。釣りの楽しさも倍増するよ。」とのこと。お気に入りの竿の話をしてくれる吉澤さん、本当に楽しそうでした。“竿が好きだ”という思いがそのまま工房の名前になっているのも納得です。

竿好(さおよし)
住所
大田区南蒲田3-15-7
電話
080-1096-2252
※和竿の販売・修理のほか、事前に連絡すれば見学も可能だそうです。

氷彫刻・フルーツカービング 小野 恒夫さん

イベントでの実演のほか、テレビCMやポスター撮影などでもひっぱりだこという氷彫刻の世界ではとても有名な人なのです。

壁には、これまでの作品の写真がずらり。CMやイベントなどで活躍されています。
工房にお邪魔して、バターナッツ(かぼちゃ)のカービングを見せていただきました。下書きナシのフリーハンドで、しかもインタビューに答えながら専用ナイフでどんどん彫り進める小野さん。すごいです。

完成まで、約30分。美しい!素晴らしい!


カービングの発祥の地はタイです。タイはもちろん、海外ではカービングを生業としている人も多いのだそう。氷彫刻も同様で、日本ではプロがほとんどいないのが残念なところですね。
氷彫刻で使うノミは大小さまざまなサイズがありました。イベントなどでは、チェーンソーも使います。
手前にあるのは、ソープカービング。
すいすいと彫っていく様子を見ていて、さぞかし子供のころから絵心もあったのだろうと思いきや、「いやいやいや、全然。彫刻刀なんて馴染みがなかったし、絵は今でも苦手ですよ。」とおっしゃる小野さん。もともとは西洋料理の料理人で、盛り付けのための氷彫刻に携わったのがきっかけだったそうです。弟子は取っていませんが、これまで氷彫刻を教えてきた生徒さんたちが全国各地にいて、イベントの度に手伝ってもらうことで、技術を伝えていっているといいます。73歳になった今でも現役の氷彫刻師であることに、まわりからは「驚異の70代、なんて言われていますよ。」と笑う小野さん。身体をいたわりながら、もう少しがんばっていきたいと話してくれました。


小野さんの作品の数々
結婚披露宴でのキャンドルサービス用氷彫刻
「絆を結ぶ灯りの城」
フルーツカービングは、きゅうりやニンジンの葉が基本の形だそう。

なお、小野さんの工房では、カービングの体験が可能とのことです!
お友達もお誘いの上、伝統工芸に実際に触れてみてはいかがでしょうか。
工房一会(こうぼういちえ)
住所
大田区上池台3-40-4
電話
090-8503-5931
【体験教室】
*1~6名までのグループ体験が可能。日時応相談。電話でお問い合わせください。
ソープカービング体験 1,500円 ※中学生以上
ソープハリネズミ体験  500円 ※小学3年生以上
サンドブラスト体験  1,500円 ※中学生以上。グラス、ガラス製皿など持参

大田区における伝統工芸

大田区では、伝統工芸を守り未来へつないでいくための策として、2018年に「大田区伝統工芸士認定制度」が創設されました。伝統工芸士の社会的評価の向上と伝統工芸に対する興味・関心を喚起することを目的に、大田区長から区内で活躍している伝統工芸従事者に、「大田区伝統工芸士認定証」が授与されます。他の自治体などではその伝統工芸の組合が必須などの規定がある場合が多いですが、大田区の認定制度は、個人に対して授与されます。「大田区の伝統工芸士認定制度は、日本古来のものに限っていないことが嬉しいです。大田区内で活動している“すご技”の持ち主を守り、育てていこうという意図が感じられて、本当に心強いです。我々の会も、しっかりとした職人をたくさん抱えていくことで、工芸の技を後世に伝えていきたいと思っています。」(吉澤均さん談)。

吉澤さんが理事長、小野さんが事務局長を務める伝統工芸士の団体「大田区伝統工芸発展の会」も、区内で活躍する伝統工芸士を守るために、2012年6月に発足しました。古き良きものを今に伝えるということに固執せず、あらゆる職人の匠の技を伝え、守っていくことに重きを置いている団体です。伝統的に育まれてきた日本独自の技術だけでなく、海外発祥の技術であっても、すばらしい技術を持った職人であれば、会員として認めているそうです。例えば、ヨーロッパ発の「パーチメントクラフト」や独自に開発した「ボールペンアート」などを手掛ける方々が会員になっています。ただし、ただ名前だけの登録は認められず、伝統工芸の発展のために一緒に考え、活動してくれると判断し、本人も活動できると確認できてから正式に会員として受け入れているとのことです。

「100年後の伝統工芸」を育てることも、会の使命と考えているそうです。「すごい技を持っている職人さんが一人で活動しているのであれば、とにかく仲間になってもらって、その技術を周知する機会を作りながら、守っていきたいです。続けていれば、どんな技術だって、伝統工芸になり得ますからね」と理事の吉澤さんは話します。
大田区伝統工芸発展の会
オフィシャルサイト

伝統工芸を知ってもらう場を作る

「大田区伝統工芸発展の会」では、会員の素晴らしい技術をより多くの人に知ってもらうために、積極的にイベントに参加しています。区主催のイベントはもちろん、自分たちでイベントを企画することもあります。今年9月、3年ぶりに開催された「大田区伝統工芸展」もそのひとつです。ゲストなども迎えながら、会員の工芸士がブースを構え、技術を披露したり、ワークショップで実際に来場者に体験してもらったりするイベントです。

2022年9月10日(土)、11日(日)、「第二回大田区伝統工芸展」が開催されました。2日間で900名を超えるお客様が来場し、大田区の宝である伝統工芸に親しみました。

「大田区伝統工芸発展の会」理事長 吉澤均さん

初日、生け花のパフォーマンスで幕開けし、大田区長の挨拶と「大田区伝統工芸発展の会」の吉澤均会長の開会宣言でスタートしました。

2019年に初めて開催されてから、3年ぶりの第2回目となった今回のテーマは、「おおたの手仕事に、ここで会える」です。来場者の皆様に伝統工芸の技を見て体験してもらおうと、伝統工芸士の方々も楽しみにしていたそうです。各ブースで匠の技を見るだけでなく、来場者が伝統工芸士と談笑している様子も多く見かけられ、とてもアットホームな雰囲気でした。

2日目のオープニングアクトは、八幡睦獅子連の皆様による獅子舞。とても楽しいステージでした。

多くの幅広い層のお客様で賑わっている会場
伝統工芸士たちがそれぞれのブースで技を披露するほか、ライブパフォーマンスもたくさん催されました。書道や講談、三味線演奏、演劇など多彩なゲストによるパフォーマンスと、大田区伝統工芸士の実演もありました。




「大田区伝統工芸発展の会」事務局長の小野恒夫さんによる氷彫刻。さまざまな道具を使って、氷の塊が美しい 白鳥の彫刻に仕上がりました。

第二回大田区伝統工芸展には、さまざまな匠の技が集結していました。日本古来の技から海外由来の伝統的なアートなど、とても幅広く親しみやすいものばかり。ひとつひとつのブースを見ていくと、興味が尽きません。そして、伝統工芸士のどなたも、話しかけると手を止めて応じてくれます。伝統工芸の職人さんに直接話しかけてもいいのかしら?と身構えていたのが恥ずかしくなるくらい、みなさんとってもフレンドリー。次回も絶対来よう!と思わせてくれる楽しいイベントでした。
お話を伺った、吉澤さんの和竿のブース。釣り好きな人にはたまりませんね。
お話を伺った、小野さんのカービングのブース。特に女性に人気で、多くの方が作品を購入されていました。

このイベントの最大の魅力は、実際に伝統工芸を体験できるワークショップがあること。伝統工芸士から直接手ほどきを受けることができて、初心者でも参加可能な内容というのが嬉しいところ。


ソープカービングのワークショップに参加。
小野恒夫先生のお手本。すーっとキレイに彫刻刀が花びらを生み出します。


ん、ん、ん?なかなかきれいに円を描いて彫り進めることができません。ソープを時々遠目に見てみることと、浅めに彫刻刀を入れるのがコツだとか。アドバイスのおかげで、なんとかそれらしいお花になりました。

伝統工芸は決して敷居の高いものではなく、誰でも楽しめる身近なものです。ぜひイベントや教室などで体験してみてください。「ユニークおおた」では、今後も大田区の伝統工芸について注目し続け、イベントの紹介やレポートについて発信していきます。

そして、伝統工芸に出会う機会があって、あなたの「おおた推し」が見つかりましたら、ぜひぜひSNSへ投稿を。その際は#uniqueotaをつけてくださいね!

大田区シティプロモーションサイトUniqueOtaでは、「他にはない、大田区ならではのユニークな場所と出会えるまち」を合言葉に、様々な魅力を発信中です。
次回の特集もお楽しみに!
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